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解雇する際に考えるべきこと

まず考えるべきこと

従業員が横領などの金銭に関する違法行為を行っていた場合、会社は、①当該従業員を比較的有効に解雇することができる可能性が高く②解雇手続としては、懲戒解雇手続を選択することとなるため、退職金を支払わなくてよい可能性が高くなります。したがって、ある従業員を解雇したい、と思った時、使用者側としてまず考えるべきなのは、当該従業員が会社の業務に関連して、横領などの違法行為を行っていないか、ということです。典型的なケースとしては、従業員が会社の金銭を使い込んでいた場合があげられます。

判旨

例えば、札幌地裁平成17年 2月 9日判決労経速1902号3頁(56巻16号)は、旅行会社の従業員が出向先において、経費の不正請求を繰り返し行っており、不正請求によって取得したと裁判所が認定できる金銭の総額が金22万6500円であった、という事案において、会社による懲戒解雇を有効と認めました。判旨は、以下のとおり、当該従業員が不正請求によって取得した金額が、金22万5000円と必ずしも多額ではない場合においても、不正請求を行った回数が15回もの多数に及ぶことなどから、会社による懲戒解雇の手続を有効なものとしています。

「前記のとおり、懲戒解雇事由が存する場合であっても、その着服した金銭の使途等を含めた具体的事情いかんによっては、懲戒解雇の相当性を欠き、解雇権の濫用に当たる場合があり得るところ、本件において原告に有利に作用すると考えられる事情としては、本件で具体的解雇事由に該当する出張旅費の不正受給金額が二二万六五〇〇円と必ずしも多額というわけではないこと、原告は昭和四三年五月に被告に入社して以降、被告及びトラベランドで長年にわたって勤務、出向して稼働し、営業所所長に任ぜられていること、不正受給に係る金員をギャンブル等の遊興費に使用した形跡を窺うことはできないこと、トラベランドの指示によるものではあるものの、札幌出張時の二四泊分の宿泊料がトラベランドに返戻されていること(書証略、弁論の全趣旨)、具体的解雇事由となった出張旅費の不正受給分及びガソリン代として二一万七九八〇円(書証略)をトラベランドに返戻していることが認められるものの、他方で、原告に不利益に作用する事情としては、原告がトラベランドの釧路営業所所長の地位にあって、現場の責任者として経理を統括すべき立場にあったにもかかわらず、本件旅費規程に反して合計一五回にもわたって出張旅費の不正受給を重ねており、その回数は決して少ないと言うことはできないこと、他に札幌出張時の宿泊料の不正受給が二四泊分判明していること、不正受給の態様についてみると、出張の日程を変更して帰着した後に変更前の申請に基づく出張旅費を受給するなど、態様の良くないものがある上、実際は宿泊していないにもかかわらずホテルの宿泊に関する架空の領収書を発行させて不正受給に用いていること、出張旅費の流用の必要性が大きいとは認められないこと、トラベランドの調査に対し積極的に事実を明らかにすることなく、かえって架空の領収書があることを奇貨として、これを根拠に宿泊の事実を主張するなどしていて反省の様子が窺えないことなどの事情が認められるところであり、これらの事情を総合すると、本件での出張旅費の不正受給は悪質重大ということができ、被告が原告を本件懲戒解雇とした処分が加重に過ぎると言うことはできない。また、同様に、前記認定した事実に照らすと、本件懲戒解雇が、処分の相当性、謙抑性に反すると言うこともできない。」

従業員が違法行為を行っているか考えることの意味

上記のとおり、従業員が金銭の横領などの重大な違法行為を行っていた場合、従業員による違法行為を立証できれば、従業員を有効に解雇できる可能性が高くなります。仮に、従業員が違法行為を行っていたことが立証=証拠がない場合においても、従業員が何か違法行為を行っていないか考慮することは、非常に重要な意味を持ちます。重大な違法行為を行っていた従業員に対しては、仮に証拠がなかったとしても、重大な違法行為を行っていた事実を指摘することにより、退職に関する交渉を有利に進めることができるからです。

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