質問
支店長がセクハラ行為をしています。懲戒解雇することはできますか。
回答
まず、支店長が誰に対して、具体的にどのような行為をしたのか、明らかにする必要があります。次に、支店長の行為について証拠があるのかが問題になります。支店長が行った行為の内容によっては、支店長を懲戒解雇した場合、解雇が無効となるリスクがあります。
参考になる判例
東京地裁平成21年4月24日判決労判987号48頁
「ア 原告の前記セクハラの内容は,まず,本件宴会においては,複数の女性従業員に対して,原告の側に座らせて,品位を欠いた言動を行い,とりわけ,新人のA6に対して,膝の上に座るよう申し向けて酌をさせたり,更には,A13に対しての「本件犯すぞ発言」等は,悪質と言われてもやむを得ないものである。
そして,原告の日常的な言動も,酒席において,女性従業員の手を握ったり,肩を抱いたり,それ以外の場面でも,特に,女性の胸の大きさを話題にするなどセクハラ発言も繰り返していたものである。
加えて,本件では,被害者側にも,原告に誤解を与える行為をしたといった落ち度もない上,原告は,東京支店支店長として,セクハラを防止すべき立場であるにもかかわらず,これらを行ったものであり,また,原告は,a社グループの幹部として,倫理綱領制定の趣旨,重要性をよく理解し,他の過去のセクハラの懲戒処分事案についても認識していたものであることも前提事実摘示のとおりである。
以上の諸点にかんがみれば,本件における原告の情状が芳しからざるものであることは明らかである。
イ しかしながら,他方,日頃の原告の言動は,前記発言のほか,宴席等で女性従業員の手を握ったり,肩を抱くという程度のものに止まっているものであり,本件宴会での一連の行為も,いわゆる強制わいせつ的なものとは,一線を画すものというべきものであること(A6は,原告の膝につくかつかないかの中腰で,ビールを注いだものであり,A6に対する行為も,強制わいせつ的なものとまでは評価できない。),本件宴会におけるセクハラは,気のゆるみがちな宴会で,一定量の飲酒の上,歓談の流れの中で,調子に乗ってされた言動としてとらえることもできる面もあること,全体的に原告のセクハラは,人目に付かないところで,秘密裏に行うというより,多数の被告従業員の目もあるところで開けっぴろげに行われる傾向があるもので,自ずとその限界があるものともいい得ること,前記セクハラ行為の中で,最も強烈で悪質性が高いと解される「本件犯すぞ発言」も,女性を傷つける,たちの良くない発言であることは明白であるが,前記認定に照らせば,A13が,好みの男性のタイプを言わないことに対する苛立ちからされたもので,周囲には多くの従業員もおり,真実,女性を乱暴する意思がある前提で発言されたものではないこと,原告は被告(会社)に対して相応の貢献をしてきており,反省の情も示していること,これまで,原告に対して,セクハラ行為についての指導や注意がされたことはなく,いきなり本件懲戒解雇に至ったものであること等の事情を指摘することができる。
ウ 以上の諸事情に照らして考慮すると,原告の前記各言動は,女性を侮辱する違法なセクハラであり,懲戒の対処となる行為ということは明らかであるし,その態様や原告の地位等にかんがみると相当に悪質性があるとはいいうる上,コンプライアンスを重視して,倫理綱領を定めるなどしている被告が,これに厳しく対応しようとする姿勢も十分理解できるものではあるが,これまで原告に対して何らの指導や処分をせず,労働者にとって極刑である懲戒解雇を直ちに選択するというのは,やはり重きに失するものと言わざるを得ない(被告は,直ちに,懲戒解雇を選択することなく,仮に,原告を配転(降格)することによって,東京支店から移動させたとしても,セクハラを訴えた5名(A10,A11,A12,A6及びA13)は,退職せざるを得ない状況となるであろうし,万が一,退職しなかったとしても,今後,常に原告におびえ続け,平穏に仕事をすることはできない状態となるのであって,本件において,原告に対して,懲戒解雇をもって臨む以外の処分は考えられない旨を主張するが,被告には,倫理担当者もおり,かかる被害者を守るシステムは構築されているし,仮に,原告に報復的な行為をする兆しがあるのであれば,そのときにこそ,直ちに懲戒解雇権を行使すれば足りるのであって,被告の前記主張は,採用できない。)。
(3) 以上のとおり,本件懲戒解雇は,被告の主張する各事情を考慮しても,なお重きに失し,その余の手続面等について検討するまでもなく,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上,相当なものとして是認することができず,権利濫用として,無効と認めるのが相当である。
(4) したがって,原告は,未だ被告の従業員としての地位を失っていないから,その地位確認を認める請求は理由があり,かつ,賃金請求権(原告の賃金額等については,当事者間に争いがない)も有しており,原告の本判決確定の日までの賃金請求は,理由がある。
続いて,原告の将来の賃金請求について検討するに,「将来の給付を求める訴えは,あらかじめその請求をする必要がある場合に限り,提起することができる」(民事訴訟法135条)が,原告は,本判決確定後についても毎月の賃金請求をしている。しかるところ,雇用契約上の地位の確認と同時に,将来の賃金を請求する場合には,地位を確認する判決確定後も,被告が原告からの労務の提供の受領を拒否して,その賃金請求権の存在を争うなどの特段の事情が認められない限り,賃金請求中,判決確定後に係る部分については,予め請求する必要がないと解するのが相当であるが,本件においては,この特段の事情を認めることができないから,本判決確定後の賃金請求は,不適法といわざるを得ない。
3 結論
以上のとおり,原告の本訴請求は,労働契約上の権利を有する地位にあることの確認請求については理由があるから,これを認容し,本件懲戒解雇後の賃金請求のうち,本判決確定の日の翌日以降における賃金の支払を求める請求にかかる訴えの部分は,不適法であるからこれを却下し,本件懲戒解雇後の賃金請求(上記却下部分にかかる請求を除く。)は,理由があるから,これを認容して,主文のとおり判決する。」